5.パーティ構築手法 5.1 選択肢として見るパーティ パーティは、「パーティ選択の場面における選択肢」として見ることができる。 5.1.1 パーティ選択読みの重要性 パーティ選択はポケモンバトルにおける一番最初の場面であるゆえに、重要性が高い。 パーティ選択の場面で出したパーティによって、その後の場面における選択肢や利得量が規定される。 つまり、選択するパーティ次第で、その後の展開が楽になるか否かが決まる。 5.1.2 パーティの利得分布 パーティは「パーティ選択の場面における選択肢」であり、 パーティを作成するということは、選択肢を作成するということである。 パーティを作成する際は、パーティ選択の場面の読みでどのような選択肢を用意すれば優位に立てるのか、 ということを意識する必要がある。 また、読みにおいて、選択肢は複数あることが望ましいため、以下のような準備をすることが求められる。 ・あらかじめ、パーティを複数作成した状態で対戦に臨む。 ・対戦する直前まで複数のパーティの構想を持っておき(作成はしない)、実際に対戦で使うパーティのみ作成する。  たとえば、大会の1日前までは10個のパーティの構想を持っておき、  1日前になったら、10個のパーティのうち大会で高い利得量が出ると判断できるパーティのみを作成する。  そして、大会では1日前に作成したパーティのみを使用する、といった具合。 5.2 対策コストの考え方 パーティ選択の場面の選択肢を作成する際の実現性について考える際は、「対策コスト」について考える必要がある。 より有効な選択肢を作りたいのであれば、対策コストの低減を意識する必要がある。 5.2.1 対策コストの概念 対策コストは、特定の相手の対策を行う際に、資源(※)の固定を行うことによって発生する。 ある相手を対策する際に発生した対策コストが高ければ高いほど、他の相手の対策を行うことが困難になる。  ※資源   パーティの構成要素。   種族、各ステータス(レベル、種族値、固体値、努力値)、特性、技、持ち物のことを指す。   これらの資源には、ルールによって制限がかけられる(使用禁止の種族がいる、レベル上限がある、等)。 なお、どのパーティにも強いパーティを作成できないのは、「対策コスト」という概念があるからである。 たとえば、100通りの相手の対策のために6匹の種族を固定した(6匹の種族で対策コストを払っている)場合、 別の相手を対策するために別の種族を用意する(対策コストを追加する)ことは不可能になる。 ただし、対策コストを低減することはある程度であれば可能である。 上記の例で言うと、100通りの相手の対策を5匹の種族で行えるように工夫することで対策コストを減らし、 別の相手の分の対策コストを払うことができるようにする、といったことは可能である。 5.2.2 対策コストの高低の計り方 以下のような対策を行うと、高い対策コストが発生する。 ・多くの資源を固定される対策 ・競合する資源を固定される対策  たとえば、種族Aを対策するために、  種族Bに技aか技bを搭載するとする。  ここで、技bを使用した場合技cとの両立が不可能になる、という制約条件が存在するとする。  また、技cを使用しなければ種族Cを対策できないとする。  この場合、技bを固定してしまうと、種族Cへの対策が不可能になってしまうため、  技bを固定した場合は、技aを固定した場合に比べて対策コストが高くなる。 5.2.3 要求レベルと対策コストの高低 ある相手に対して高い利得量を求めれば求めるほど、高い対策コストが発生する対策の導入を余儀なくされる。 重要ではない相手に必要以上に高い利得量を求めてしまうと、過度に高い対策コストを払うことになる。 5.2.4 資源の固定の方法と対策コストの高低 同じ相手を同じ要求レベルで対策する場合でも、対策の方法によって対策コストの高低が変わる。 5.2.5 流用による対策コストの低減 ある相手への対策を行うついでに別の相手への対策を行う(資源を流用する)ことによって、対策コストを減らせる。 たとえば、種族Aで種族Bを対策する際、技a・技b・技cを固定する対策と、技d・技eを固定する対策が存在するとする。 また、種族Aで種族Cを対策する際、技b・技c・技fが必要であるとする。 種族Aで種族Bを対策することだけを考える場合は、技d・技eを固定する対策が望ましい。 しかし、技d・技eを固定してしまうと、種族Cを対策するための対策コストが払えなくなってしまう。 ここで、種族Aで種族Bを対策する際に、技a・技b・技cを固定すると、種族Cの対策を行う際に技b・技cを流用できる。 流用により対策コストが下がるため、種族Aで種族Bと種族Cの対策をまとめて行うことが可能となる。 (技a・技b・技c・技fを固定する) 5.2.6 近似の粒度 流用を行う際は、近似(※)の粒度を考える必要がある。  ※近似   対策を考える際に、様々な相手を一くくりにして考えること。    荒い近似の例 …1匹のポケモンの対策を考えるときに種族単位で考える            複数匹のポケモンの対策を考えるときにタイプ単位で考える            使われることが少ない種族は無視する    細かい近似の例…1匹のポケモンの対策を考えるときに型単位で考える            複数匹のポケモンの対策を考えるときに種族単位で考える            他の種族の下位互換となっていない種族は全て考慮に入れる 荒い粒度で近似を行う場合は、想定する組み合わせの数が少なくなり俯瞰的に対策を考えることができるが、 導入した対策が実戦で想定通りに機能しなくなることが多くなる。 細かい粒度で近似を行う場合は、導入した対策が実戦でも想定通りに機能することが多くなるが、 想定する組み合わせの数が多くなり俯瞰的に対策を考えることが難しくなる。 5.3 目的を見失わないパーティ作成 「利得分布の定義・ギミックの設計・仮想敵崩しシミュレート設計・育成・テスト」 という順番でパーティを構築することで、 当初の目的とは違うパーティができあがってしまうことを防ぐことができる。 結果的に、各々のパーティの適切な管理を可能にし、 パーティ選択の場面において優位に立つために必要な選択肢を確保することを可能にする。 5.3.1 パーティ作成における工程 パーティ作成においては、以下のような工程がある。 ・利得分布(※)の定義  ※利得分布   パーティ選択の場面の読みにおいて、利得表上に描かれる各々のパーティの利得量の分布。   利得分布により、それぞれのパーティの特徴が決定づけられる。   (「特定のパーティに対して強いパーティ」「どのパーティともまんべんなく戦えるパーティ」等)     パーティ選択の場面で用意したい選択肢を定義する。  この際、相手の各々の選択肢に対して期待する利得量を定義する。    また、既に選択肢(パーティ)が存在するのであれば、  既存の選択肢と同じような利得分布を持った選択肢を定義しないようにする。 ・ギミック(※)の設計  ※ギミック   「幅広い相手に対応したり、特定の相手に対して高い利得を得られたりする、工夫された資源の組み合わせ方」   のこと。  目標とする利得分布を実現するために、資源の組み合わせを考える。  利得分布の実現性を確認するために、近似の粒度は荒くし、俯瞰的な視点で設計する。  なお、ギミックの設計は、以下の流れで行う。    目標とする利得分布の実現に最低限必要な資源を固定する  ↓  目標とする利得分布に到達できていない点を見つける  ↓  更に資源を固定し、目標とする利得分布に到達できていない点を克服する  ↓  目標とする利得分布に到達できていない点を見つける  ↓  :  荒い近似の上でできる限りの資源を固定する ・仮想敵崩しシミュレート設計  具体的に仮想敵を設定し、その仮想敵を崩せるかどうかをシミュレートする。  仮想敵を設定する際は、利得分布を考える上において重要な相手を仮想敵とする。  崩しシミュレートは、実際のポケモンバトルをそのまま机上で行うような形で、できる限り具体的に行う。  崩しシミュレートにより、パーティを細かく設計する(資源を細かいところまで固定する)ことが可能となり、  育てる必要があるポケモンも明確となる。  実際のポケモンバトルを想定するため、近似の粒度は細かくする。 ・育成  パーティを設計通りに作成し、対戦を行える状態にする。   ・テスト  利得分布の定義、ギミックの設計、仮想敵崩しシミュレート設計が正しく行われていることを、  実際の対戦を行うことによって確認する。   5.3.2 問題が発生した場合の対応 ある工程で問題が発見された場合は、前の工程の作業をやり直す。 このことで、問題へ対応することにより当初の目的とは違うパーティができあがることを防ぐ。 ただし、工程の後戻りが発生してしまうと、パーティ作成に時間がかかってしまうため、望ましくない。 (パーティ作成を短期間で行うことの重要性は、「5.4 継続的な改善」に述べる) 5.3.3 工程の後戻りを防ぐ方法 問題の発生による工程の後戻りは、前工程で想定していなかったことが発生することで引き起こされる。 しかし、全てのことを予め想定することは不可能である。 (特に、基礎的なデータに詳しくないプレイヤーや、理論を理解していないプレイヤーは、予め想定することが困難) そのため、以下の対策を行うことで、想定外のことを減らすことが有効でなる。 ・工程の一部先取り 現在の工程でわからないことがあれば、先の工程の一部を先に実施することで、 不明点を明確にしてから計画を立て直すことができる。 先の工程を一部先取りする場合は、未決定部分を抱えたまま先の工程に進むことになる。 この場合、時間をかけて未決定部分を無理に決めようとしても、後で変更になることが多い。 また、この状態で使用するギミックをガチガチに決めてしまうと、 後の変更が大変になる(特に、複数の種族を組み合わせるギミックに変更が発生した場合は大変)。 そのため、未決定部分に関しては、適当に仮決めすると良い。 たとえば、ポケモン1匹分の枠が丸ごと未決定の場合は、 「深く考えず、他のパーティで使用したポケモンをそのまま使いまわす」 ぐらいの気持ちで仮決めしておくと良い。 ・レビュー 一人で流行や各ギミック、各仮想敵について完全に把握することは不可能である。 そのため、無理に一人でパーティを作成しようとした場合は、工程の後戻りが発生する可能性が高くなってしまう。 工程の後戻りを防ぐためには、レビューを経て、複数人の視点から各工程の妥当性を確認することが有効である。 (なお、仮想敵崩しシミュレート設計で行われるレビューは、俗に「鑑定」と呼ばれている) ・シミュレーターの使用  パーティの資源を入力するだけで、オンライン上で仮想的に対戦できるサイトが存在する(シミュレーター)。  シミュレーターを用いれば、育成の工程を無視して、テスト工程を先取りすることができる。  テスト工程をシミュレーターでこなした後に育成を行うことで、育成の工程の後戻りを防ぐことができる。 5.4 パーティの継続的な改善 問題のないパーティを作り上げたとしても、 ポケモン対戦界では次々と新たなギミックが生み出されたり、ギミックの再評価が行われたりするので、 作成したパーティは近い将来に陳腐化する。 ポケモン対人戦を続ける限り、継続的なパーティ改善は必要不可欠である。 5.4.1 ポケモン対戦界の世界観 ポケモン対戦界では次々と新たなギミックが生み出されている。 また、ギミックの再評価(※)も随時行われている。 ※ギミックの再評価 既存のギミックを用いることで実現できる利得分布を見直すこと。 たとえば、ギミックcが新しく生み出されたとする。 この時に、「元々はギミックbの対策として用いていたギミックaを用いて、ギミックcを対策することができる」 といった具合に、既存のギミックを用いることで実現できる利得分布を見直すことがある。 (ギミックcが生み出される前は、ギミックaのギミックcに対する利得量は意識されていなかった) 時には、新たなギミックやギミックの再評価により多くのパーティが陳腐化し、流行が大幅に変わることもある。 5.4.2 利得分布の見直し 新たなギミックがポケモン対戦界で生み出されたり、ギミックの再評価が行われたりした場合、 そのギミックにより自分のパーティの利得分布が変化する可能性がある。 そのギミックへの対応を考える上で、自分のパーティの利得分布を再度確認する必要がある。 5.4.3 ギミックの進歩への対応 新たなギミックやギミックの再評価によりギミックが進歩し、自分のパーティの利得分布が変化した場合、 以下のような対応が考えられる。 ただし、対応を行う際は、全ての工程をもう一度見直すかやり直すかし、 各々のパーティが満たすべき利得分布を損なわないようにする必要がある。 ・ギミックの進歩による影響が無視できるほど小さい場合  対応を行わない。   ・ギミックの進歩による影響が比較的小さい場合  既存のパーティに小規模な修正を加えて対応する。  (攻撃技を命中率が高いものに変える、「すばやさ」努力値を少し多めに振る等)  小規模な修正で新規ギミック・再評価されたギミックを導入できるのであれば、  新規ギミック・再評価されたギミックを導入しても良い。   ・ギミックの進歩による影響が比較的大きい場合  以下に挙げる対応方法の内、いくつかの対応方法を適用し、対応を行う。  (時間がかからない対応方法を先に挙げている。また、後に挙げる方法の方が効果はある)  2つ以上に対応方法を適用する場合、時間のかからない対応を先に行うことで、段階的に対応を行う。    【対応方法】  -既存のパーティに、運・読みの良し悪しが試合に大きな影響を与える資源を盛り込む   (ギミック同士の相性よりも、運・読みによって勝ち負けが決まりやすい状況を作り出す)  -新規ギミック・再評価されたギミックを搭載したパーティを作成し、互角の勝負に持ち込む   (ギミックを丸ごと真似し、ギミック同士の相性で差がつかないようにする)  -新規ギミック・再評価されたギミックに対してのみ強いパーティを用意する   (パーティ選択時に、読み次第で優位に立てるような状況を作る)  -既存ギミックと新規ギミック(再評価されたギミック)の両方に強いギミックを開発し、   既存のパーティにそのギミックを搭載する   (ギミックを新たに開発し、付け焼刃的に既存のパーティに搭載することで、短時間で優位に立つ)  -既存ギミックと新規ギミック(再評価されたギミック)の両方に強いギミックを開発し、   そのギミックを中心とした新規パーティを作成する   (ギミックを新たに開発し、そのギミックを軸にパーティを再作成することで、大きく優位に立つ)   5.4.4 工期圧縮の方法 ギミックの進歩に迅速に対応するためには、パーティを作成する期間を短くする必要がある。 ・利得分布の定義〜仮想敵崩しシミュレート設計  各ポケモンのステータス、様々なケースにおけるダメージ計算等の個別具体的な知識を暗記することによって、  工期圧縮を図れる。  また、「5.パーティ構築手法」に挙げる構築手法を理解し、  自然にこの構築手法に則った考え方ができるようになるまでパーティ構築の経験を積めば、工期圧縮を図れる。    ただし、これらの工程はパーティを組み上げる工程であるため、  これらの工程の善し悪しができあがるパーティの質の直結する。  また、「仮想敵崩しシミュレート設計」の工程でしっかりとシミュレートを行っていれば、  バトル中に少ない時間で思考をまとめることができるようになるため、トレーナーとしての実力も向上する。  そのため、手を抜くことによって工期を圧縮しようとすることは避けるべきである。   ・育成  この工程に関しては、最終的に育てられるポケモンが同じ能力を有していれば、  どのようなプロセスで行ってもパーティの質には影響しない。  更に、重要でない資源(打撃攻撃技を持たないポケモンの「こうげき」個体値等)は、  手抜きをしてもパーティの質にはほとんど影響しない。    そのため、パーティを早く作成するためには、主にこの工程の工期圧縮が鍵となる。  この工程を早くこなす手段としては、例えば以下のようなものがある。  -ポケモンを他の人から貰う  -育成を他の人に依頼する  -他のパーティの育成済みのポケモンを使用する  -乱数調整を行う   ・テスト  この工程は、利得分布の定義〜仮想敵崩しシミュレート設計間の工程が  上手くいっていることを確かめる工程である。  相手に対して使ってほしいパーティを指定できるのであれば、  テストがスムーズに進むため、この工程は圧縮できる。  また、利得分布の定義〜仮想敵崩しシミュレート設計間の工程の不確実性が少ない  (考慮できていないことが少ない) のであれば、この工程は若干手を抜いても構わない。  ただし、最終的に組み上がったパーティの妥当性を確かめるために、なるべくこの工程は手を抜かない方が良い。  また、実戦を通すことで、相手の各選択肢の選択確率を直感的に理解できるようになるので、  トレーナーとしての実力を向上させるためにもこの工程は極力軽視しない方が良い。